ブラッカムの爆撃機



イギリスの児童文学者 ロバート・ウェストール(Robert Westall 1929−1993)の作品のひとつに「ブラッカムの爆撃機」(Blackam's Wimpey)がある。子供時代に第二次世界大戦を体験したことを元にして作られた物語である。戦争下での状況や人物の内面描写など児童文学という枠に囚われずに、子ども向きに脚色せずにフィクションとして描くことを貫いた作家である。そういった彼の作風に当然賛否両論がある。

 ウェストールは「歴史を好き勝手に書きかえてはいけない。わたしのもとへは、人種差別的、性差別的な表現を控えるようにという要望が強く寄せられるが、真実を描いてほしいという要望はもっと強い。自分たちがどこまできたかを知りたいなら、振り返って、かつてほんとうはどこにいたのかを見きわめるしかないではないか」と書いている。日本の過去の戦争論議にも通じるところがある。
彼はまた「どうしたら子どもたちに、希望を裏切ることなく真実を伝えられるだろう?」と自問し続けてきた作家である。彼は生活の糧を美術教師で得ていたという一面もある。文学作品から視覚的なイメージが目の前に現れてくるのは、彼のそういった才能の成せる技かもしれない。
 この10月に岩波書店から出版された本では、宮崎駿がアニメで「タインマスへの旅」と題して寄稿している。彼のアニメの作品には戦闘場面が多く描かれているが、その元になっているのがウェストールの作品であることを初めて知ったわけだ。本書ではブラッカムの他に「チャス・マッギルの幽霊」と「ぼくを作ったもの」が収録されている。
ウェストールの作品では他に「機関銃要塞の少年たち」、「かかし」、「禁じられた約束」、「海辺の王国」、「猫の帰還」などが知れられている。
記:2006/10/22