代数学


 
アルジェブラ(Algebra)と言われる代数学の歴史を読み直すと、人間っておもしろいことに興味を持つもんだなと改めて思う。数の計算という実用的なところから始ったのが、いつのまにか数に代わるもの(代数の語源)として記号を使った方程式を考え出す。まだそこまでは分かる。しかし、方程式の一般解を求めることに熱中したり、方程式の係数に興味を持って、解と係数の形式的な美を見出したりしながら、抽象的世界にはまり込んでいく。その果てにあるのは、群、環、体、ベクトル、テンソルなどという数学独特の世界だ。
そんな世界を扱った一冊の本に最近出あった。ジョン・ダービーシャーによる「代数に惹かれた数学者たち」。内容は次のように紹介されている。

「代数方程式や体論、群論、代数曲線、代数曲面に対して取り組んできた数学者の紹介を中心に、群論と代数幾何に至る代数学の魅力、数学者たちの取り組みの変遷などを、多くのエピソードを織り込みながら、直感的に理解できる数学史ドラマ。現代代数学の前史に迫る。アルジェブラ(代数および代数環)の発展に寄与した数学者たち、特に近代以降の幾何学との関わりを中心に解説する。登場人物は、フィボナッチ(うさぎの数列)、デカルト(代数の記号表記)、ニュートン(方程式解の対称性)、コーシー(置換の算術)、アーベル(5次方程式の代数的一般解の不存在)、ガロア(方程式解に置換群を見いだす)、ハミルトン(4元数)、リーマン(幾何学革命)、ヒルベルト(抽象化と零点定理)、グロタンディーク(抽象代数幾何学)など。」

 これらの代数は、あくまで知的興味を拡大していった末にたどりついた理論であるが、現実離れしているものと思われても仕方のないことだった。しかし、近年になってこれらの考えが現実の世界と深いつながりを持つことがわかってきた。特に物理の分野で、その傾向が著しい。相対論、量子論などの世界を数学的に表現しようとしたときこれらの理論が役立ってきたのだ。大学で物理をやってきた人間にとっては眼を啓かれる一冊だった。
 記:2008/5/2