便利さに失えしもの



鳩山の散歩道



  比企丘陵を切り開いて作った鳩山ニュータウン
に住んでいる。丘陵特有の自然のめぐみを受けな
がらそれでいて、生活には不便を感じない環境を保
っている。そこで生活している人間にとって、やや
もすれば便利さを追求したくもなるときはある。
しかしこの望みを増やせば増やすほど失われてい
くものがある。自然を求めてこの町にやってきたた後
宅地開発は容赦無く進み、比企丘陵の面影がしだい
に失われていくのを見ている。
 ぼくが小学生のころ、もちろんそのころはここには
住んでいない。東京の練馬に住んでいたのだが、
親に連れられてハイキングに来たときのことを覚え
ている。そのころは、この新しい町の影形も無く奥
深い自然に囲まれた地域だった。
 現在、この町には、約3000世帯の家が建ち並ん
でいる。ほとんどの人はここから都内に通っている。

 近くには物見山という小高い山があって、春の
桜の季節にはにぎわいを見せる。頂上からの展
望もすばらしいものだ。その物見山近くに最近見
なれない建造物が出現した(右写真)。
いつも通う駅までのバスから左手に見えるこれは、
この場所には不釣合いで異様な感じを受ける。
はじめは展望台か何かを作っているのかを思った
が最近、それが何であるかが解った。
携帯電話ドコモ用の中継アンテナである。
約50mもある塔は、自然の中に、にょっきりと現わ
れた人工キノコの様に見える。さぞ鳥たちもびっく
りしていることだろう。
 このあたりは、危急種であるオオタカの営巣でも
知られている場所に近い。オオタカの眼にはどん
なものに映るのだろうか?人間でも異様に思うも
のを鳥たちはもっと驚異に感じているかもしれない。
鳩山は、電波の届き難い場所であることは以前か
ら言われていた。しかし、携帯電話だけのために
電波塔を建てるということが許されるのだろうか?

ドコモの電波塔(物見山付近)
定峰峠・定岳寺付近
自然がすべてであるとは言わないが、考えて実行すべきこともあるのではないか? 上の写真は定峰峠
にある岩尾山定岳寺付近であるが、自然を生かしつつ、その中に建物が溶け込んでいるのがわかる。
いや自然の一部を借りて建物が建っていると言った方が適切かもしれない。
 こんな状況の中、鳩山ニュータウンの自治会はドコモに対して公開質問状を提出したが、この文章を書
いている時点では回答がない。自治会で重要視した項目は以下の通りである。

1.建設計画の細部
2.電波(塔)による周辺への影響
3.県立比企丘陵自然公園内で、かつ名勝「物見山」への配慮
4.危急種(絶滅が心配されていて、積極的な保護が求められている生物種)であるオオタカへの
 影響の配慮
5.景観の変化(どのように見えるようになるか)
6.塔の転倒に対する危惧(災害時には岩殿岩井線は、鳩山ニュータウンへの物流ルートとして確
 保されなければならない) 


 携帯電話の電波の強さに辟易した経験がある。それは、電車に乗っているときにカセットをヘッドホーンで
聴いていたのだが、突然ものすごい雑音が聞こえたのだ。まわりを見まわしてその原因がわかった。携帯
を使っている最中に発している電波が原因である。電話を止めた瞬間、雑音が消える。こんな強い電波を発
しているアンテナは本人の脳の近くにある。この影響が特に心配になった。
 携帯電話の伸びは今やすごい。学生までが自分の電話を持つ時代である。
しかしちょっと待てよ、どこかおかしくはありませんか? そんなこと言うのは時代遅れだよと言われそうだが、
この時代は次の時代に続くもの。後々まで考えて行動したいものと思うが、いかがなものだろうか?
                                                      2000/2/18