癌という生態



病院から一時戻り、自宅で様子を見ている。2004年の暮れに大腸癌手術をしてから3年半弱が経過している。2005年末に直腸に近い結腸に癌の転移が見つかり、抗癌剤治療が始る。それから抗癌剤治療を継続し順調に回復してきたと思っていた。ところがここにきて腫瘍マーカーの値が上昇しはじめ、CTで癌が盛り返し、腸の通路を狭めているのが分かった。最近、便の出が悪く変だな思っていたが、15日に腹部が痛くなったため病院に緊急入院した。下剤と便をやわらかくする薬の作用で何とかたまった便を取り除くことができたが、内視鏡検査の結果、細くなった部分は直径1センチ足らずの細さ。そのため、人工肛門手術を受けることに決まった。人工肛門をつけた後、放射線治療で少しずつ癌を取り除いていくという方針が打ち出された。はじめは人工肛門に抵抗はあったが、便の出ない苦しさを思ったら、まだ人工肛門を取り付けた方が楽だと思い、その方針に従うことにした。手術までの間、便を詰まらせないように注意しなければならない。食事と下剤という相反する方法でこの場をなんとか乗り越えなければならないだろう。
 それにしても、癌とは一筋縄ではいかない代物だ。新しい抗癌剤に変えたときには効果が出るものの、そのうちに再び癌の勢力が強くなる。インフルエンザとの戦いに似ている。こちらで強力な処置を打ち出すと、相手もそれに対抗する力を備えてくる。抗癌剤という処置がはたしていいのかどうなのかわからない。最近受けた抗癌剤の影響かあるいは今まで受けた薬の蓄積があるのか、手足の先のしびれ観がしだいに強くなってきている。あるいは東洋的な漢方系薬などの併用治療が必要なのかもしれない。点滴のためのポートの埋め込みや人工肛門の取り付けなど体がサイボーグ化しようとも、まだ癌に負けるわけにはいかないから・・・。癌はどういう環境に弱いのだろうか?細胞分裂で増殖しているのであれば、温度が関係していないだろうか。通常、温度が低いほど反応が鈍いように思える。ということは癌の抑制に局所的患部低温治療というものが利くのではないか?癌の組織に超低温を施したとき癌に栄養を運ぶこともできなくなり、癌が死滅するのではないのか?副作用の無い、そんな治療法の開発が待たれる。
医者の意見というものはその人の所属している部署というか専門によって異なるのを今回ほど感じたことはなかった。内視鏡検査をした先生は、「患部が細くなっていることは確かだが、便が通らないというほどでもない。もっと細い人でも大丈夫ですから」と安心できる意見を聞かせてくれた。手術を担当する外科の先生は「内視鏡の写真を見たが、あの細さでは、点滴で手術まで過ごした方がいい。無理をすると腸壁が破れてしまうかも知れない。知っている病院を紹介しますから、そちらで点滴を続けた方がいい」と不安にさせる意見。手術までベットが空いていないためだ。また、内科の先生は「点滴だけでは、力がつかないのと、腸の動きが弱ってしまうため、食物を摂った方がいいですよ」と内視鏡の先生と意見と体の働きを考えての意見。どの意見を採用すればいいのか、迷ってしまう。結局は自分で選択をしなければならないということだ。そこで、外科の先生に対しては近くの胃腸科の病院への紹介状を書いてもらい、いざという時の安心料を確保しつつ、内科の先生と内視鏡の先生の意見を取り入れて食べることを選択した。ただ、食べ過ぎが禁物なのと、便が固くならないようにやわらかくする薬と下剤をもらうことにした。いやはや自己管理は難しい!
この四月に還暦を迎える。これも新たな出発を迎えるための儀式と思えばいいのかもしれない。
 記:2008/3/23