ひと夏の成長



 二人の姉弟は夏休みの間、おばあちゃんの家で過ごす事になる。母親は亡くなっているため、中学生の姉のさゆりがしっかりしている。小学生の弟は悪戯好きの腕白坊主。そんな二人のもとに毎日、海外に出張中の父親から二人に読みきかせるためのお話の手紙が届く。地球の温暖化問題を伏線にして、兄弟や村の人たち、林間学校に来た子供達との交流。ひと月はあっという間に過ぎていくが、この夏休みの間に二人は成長していく。これは井上ひさしの「イソップ株式会社」という小説の話。ここに登場する弟は、どうも井上ひさし本人に見えてくる。悪戯好きだけど、ものごとを良く見ていて、かなり的確な判断をしている。
 本を読みながらこども時代の夏休みを思い出してしまった。あのころは宿題が山ほど出ていた。算数や国語のドリル、図画、工作、日記など盛りだくさんで遊ぶ暇が無いくらいだった。ぼくは遊びたい一心で、夏休みに入ると、始めの10日間でドリルはすべて終わらせることにしていた。これが一番やっかいだったからだ。これだけ済ませておけばあとはのんびりと夏休みを満喫できる。自由になった時間をほとんど外で遊ぶ時間に費やした。近くの川に遊びに行ったり、好きな植物採集をしたり、友達とカン蹴りやめんこ、かくれんぼなど一日中外で過ごすことは山ほどあった。当時はまだ白黒テレビが出たてで、近くの家で買った家があると家族揃って見せてもらっていた時代だった。そんな時代だったからこどもは外で遊ぶことが当たり前だった。そんな昔のことを思い出しながら井上ひさしの話を読んでいた。井上ひさしと言えば、戯曲が面白くて数多く読んだが、彼の小説に初めて接したのは「吉里吉里人」だったと思う。分厚い本だったが、話に引き込まれて一気に読んでしまったことを覚えている。今回の本はそのどれとも違っていて、新たな子供向けのジャンルを切り開いたのではないかと思った。
 記:2008/6/26