美しい科学実験とは



 大学時代、実験と言う課程があった。与えられた題材にそって、地道に数値を採っていき、そのデータをもとにして、何が導き出せるかをレポートとして提出する科目である。実験に2時間から長い時には半日を費やす時がある。果たして有益な結果が得られるのかやってみなければわからない。正しい手順、道具立て、微妙な器具の調整などすべてが結果に結びつく。結果が思わしくないときには、どうしてうまくいかないかを手順、道具の調整などの見直して再度実験する。この繰り返しが長く感じたことか。教科書通りではないふらつきがある。このふらつきが法則の範囲内であることを誤差論に則って検討する。これが実験と言う地道な行為である。この実験と美を結びつけることができるのだろうか?
 アメリカ、ニューヨークのStony Brook Universityの哲学教授であるロバート・P・クリースによって書かれた「世界でもっとも美しい10の科学実験」という本がある。フィジックスワールドという雑誌で美しい実験は何かを募集したところ、300以上の候補が上がった。その中から10個を選び出して解説したのがこの本だ。この本の特徴は美との関連で実験を見つめ直している点だ。よく言われていることだが、科学と美とは相容れないという一般通念が存在することだ。科学は客観的なものであり、美は主観的なものであると。芸術と美は何の躊躇無く結び付けられるのに、科学それも実験という特殊な分野が美という観念とどう結びつくかということがこの本の主題である。クリースが「美しい実験」の要素として取り上げたのが次の三つの項目である。

 1.深さ(基本的であること)
 2.経済性(効率的であること)
 3.決定的であること


この基準に従って選ばれたのが次の10の実験だった。

 1.地球の外周の長さを測る(エラトステネス)
 2.球を落とすー斜塔の伝説(ガリレオ)
 3.斜面を転がすーアルファ実験(ガリレオ)
 4.太陽光を分析する(ニュートン)
 5.地球の重さを量る(キャベンディッシュ)
 6.光という波を実証する(ヤング)
 7.地球の自転を見るー振り子(フーコー)
 8.電子を見るー油滴実験(ミリカン)
 9.原子の内部構造を明らかにする(ラザフォード)
 10.電子の干渉を見る


これらの実験の詳細とともに、その実験の美しさがどこにあるかを哲学的に追求しているなかなか読み応えのある本である。
 記:2008/4/18