古民家ギャラリー かぐや
●いまどき、木の重厚な造りの民家があるのは、めずらしくなった。埼玉県比企郡滑川町にあるそんな民家を使ってギャラリーとしてオープンさせたのが、ぼくの友人でもある井上さんだ。美術を志してきた彼は、いつの頃からか分からないが、自分のギャラリーを持ち、その空間を媒介にして、見に来た人達と作品・文化・歴史などの共通の話題に花を咲かせたいと考えてきたのだと思う。井上さんは人とのつながりを大事に考えている人なので、その思いがしだいに蓄積していったのに違いない。井上さんは2時間以上の通勤時間をかけて都内の印刷関連の会社に勤めていたが、仕事が忙しく家に帰るのは週末というのが習慣のようになっていた。正月とか桜の季節など、友人達が集まって一緒に飲んでいるとき将来の夢についてよく話をしていた。仕事に追われる毎日を過ごしながら鬱積した気持ちをどう切り抜けていったらいいのか悩んでいたに違いない。そして今年、長年の夢を叶えるために退職を決意し、ギャラリーオープンに向けて準備を進めてきたのだ。この決意をさせたものにこの民家との出会いが大きい。太い柱や梁をふんだんに使ったその存在感は人間の意識まで変えてしまう力を持っていた。江戸時代から今まで持ちこたえてきたその力強さに圧倒されない訳がない。 武蔵丘陵の里山の一角に、背後に竹林をかかえたこの民家は年に数回程度は使われていたが、使われない期間の方が長いため、ほこりも尋常でなく降り積もり、その掃除だけでも大変だったろう。ぼくの息子なども週末には出かけていって手伝いをしたりしていた。痛んだ個所の修復や、土間であったところに新たに板の間を増やしたりと、彼の友人達の助けを借りながらここまで漕ぎつけることができた。5月の連休にオープンするギャラリーは「かぐや」と名づけられた。折りしも日本の月探査衛星「かぐや」が活躍しているのと時を同じくして幸先が良いように思える。かぐやは土、日、祭日のみオープンする。 井上さんにエールを送ると共に、かぐやがみんなの集う場であり続けていって欲しいと思う。 かぐやにかける夢は、第一回目のちらしに載せられた次の挨拶文に如実に表れている。 国営武蔵丘陵森林公園に近接して、武蔵野の面影が残る里山に江戸時代から残る古民家があります。文化財の指定がある訳でもなく、屋根をはじめ昔の姿のまま保存できている訳でもありませんが、そのたたずまいは風格があり、懐かしさ暖かさ優しさをたたえています。周囲の里山の風景と奥深い竹林の静かな気配と共に、そこに居るだけで心が満たされる大きな力を持っています。今年5月3日に古民家ギャラリー「かぐや」という空間として生まれ変わります。その呼吸する家で、展覧会、コンサート、演劇、その他のイベントを開催予定。未知数の可能性を秘めたこの場を通して、今の時代と文化、、芸術を見つめ直す作業が出来ればと考えています。第一回目の企画展として、敬愛する秩父市在住の横尾龍彦氏の作品を展示させていただけるのは、私にとっても、非常にうれしくて光栄です。多くの皆様のご来場を心からお待ちしています。 |
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古民家ギャラリー かぐや 代表 井上 正 |
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朝日新聞西埼玉版に掲載された記事 (2008年4月24日) | ||
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