カムイ伝




 白戸三平の「カムイ伝第1部」全15巻を読み終えた。江戸時代の身分制度の下での人々の暮らしぶりを的確に描いているコミックであるが、なかなか読み応えのある内容を持っている。非人であるカムイが忍者となり、下人の正助が百姓になり指導者として頭角を現す。武士の竜之進が百姓の世界で得たものはその後の生涯に大きな影響を与える。そして商人の夢屋や抜け忍の赤目などが相互に入り乱れて物語が展開していく。
 江戸時代の世界を描いているとは言え、それぞれ人物や制度を現代に置き換えると、現状批判の書としても成立する。白戸三平は、江戸について事細かに調べている。農民、漁民、マタギ、武士、商人、非人、下人などの暮らしぶりが微細な絵とコメントにより事細かに描かれていることから、江戸研究で名の知れた法政大学社会学部教授でもある田中優子さんが「カムイ伝講義」なるものを昨年暮れに上梓している。カムイ伝は、惨い場面も多く、時には眼を背けたくなるが、作者が言おうとしていることを表に出すためには、この過程を通過しなくてはならない。農民一揆、幕藩体制、身分制度が引き起こすものなど内容は非常に豊かである。15巻を半月くらいで読んでしまったが、先はまだまだ。第2部が12巻、カムイ外伝が11巻と先が長い。カムイ伝はいろいろな見方でのぞむことができるコミックであるが、どこに視点を置くかによってそこに立ち現れてくる世界も違ってくるからおもしろい。




 記:2009/3/4