かたみ歌
●不思議な世界だが、どこか懐かしい風景と人の心。分類で言えばホラーに入れられてしまうのかもしれないが、朱川湊人(しゅかわみなと)の作品はそこを表現しようとしている。「花まんま」で直木賞を受賞し、その後に書いたのが「かたみ歌」。個人的に言えば「花まんま」の世界を延長した「かたみ歌」の方が好きな作品だ。もっとやさしさが溢れ、昭和30から40年といった時代を扱いながら「三丁目の夕日」(西岸良平作)とは違った世界を描いている。かたみ歌は7つの短編を集めたものであるが、共通してアカシア商店街、古本屋などが舞台となっている。そして、作者がいちばん表現したかったのは、そうははっきりと表現してはいないが、金子みすゞとみすゞを自死に追いやった夫への鎮魂歌だと思う。 作者として自分の作品がホラーと分類されるのは心外なのではないかと思うが、幽霊が出てきたりするので、そういう分類に当てはめられてしまうのだろう。おどろおどろしき世界をドロドロと描いているのではなくて、そこにはいつも人のやさしさ、ほっとする世界が展開されている。身体と霊を分離し、さらに霊の世界は科学的ではないとの理由で排斥する昨今ではあるが、果たしてそうなのだろうか?日本人の心の中にはもともと霊の存在を信じている流れがあるように思う。自然のあらゆるものに霊が宿っているという感覚とも通じるところがあるのだろう。そういった意味でぼくの場合、こういう小説にはすんなりと入っていけるのだ。 |
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2006/1/3 記 |