そして、このごろ


庭に設置した赤道儀

いまは古巣の望遠鏡の会社に戻り、望遠鏡関係の部品、レンズなどの開発を続けている。やはりこの世界から逃れられないということらしい ^_^;
自宅の庭の一角には望遠鏡を載せる台(赤道儀)がビニールカバーをかけて一見無造作に置かれている。しかし見かけとは違って極軸のセッティングがしてあり即座の観測に対応できるようになっている。観測ドームがあれば最高なのだが、そこまで用意する余裕がない。
最近は個人的に楽しんだり、時々友人をさそって軽井沢あたりに遠征したりしている。暗い天体の撮影にはどうしても暗い空が要求されるからだ。比較的近くで行きやすい場所が北軽井沢だった。このあたりはキャベツなどの高原野菜の畑が広がっていて、ちょっと道を逸れればどこでも観測できるのがいい。一時浅間の噴火で騒がれたこともあったが、いまは落ち着いているようだ。僕が定点観測場所として利用しているのは、広い駐車場だ。そこに車を止めて車中泊で観測をしている。駐車場はアスファルト舗装されていて架台が土に潜り込まない点が気に入っている。土が剥き出しの場所だと、三脚の先がしだいに潜って赤道儀のセッティングがずれてしまうのだ。そういうわけでアスファルト舗装された場所が観測に適している。そこに座り込んだり寝転んだりできるのもいい。それで思い出したことがある。


 1975年(昭和50年)の夏休みも終わりに近づいた頃、アストロ犬チロで有名な藤井 旭さんや大野裕明さんたちの呼びかけによって、磐梯・吾妻山の山懐で「星空への招待(チロの星まつり)」という催しが初めて開催された。僕も東京天文台(現在は国立天文台)の下保 茂さんに誘われて出かけていった。全国から集まった星仲間は30人くらいだったと思う。第1回星空への招待昼間は持ち寄りの自作望遠鏡を見せ合ったりして天文談義。あたりがしだいに暗くなり星々が姿を現してくると、観測に熱中するもの、お互いの望遠鏡をのぞきながら批評しているもの、あちこちで昼間の熱気が続いていた。それとは裏腹に外気温はどんどん下がり始めていた。ふとチロを見るとアスファルトの上で寝転んでいる。なぜかなと思って地面を触ってみると暖かい。昼間の熱がここだけ残っていたのだ。さすがに動物はすごい。動物的本能を失いかけている人間には思いもつかないことだった。
そんなとき誰ともなく「あっ」という叫び声があちこちからあがり、みんなの目は「はくちょう座」に釘付けになった。はくちょう座が白鳥の形ではなくなっていたのだ。尾のところに輝いている1等星デネブから少し離れたところに明るい星が輝いている。
「新星だ!」
下保先生は急遽山を降りて東京天文台に連絡に行く。携帯なんて無い時代だ。僕らは待っている間落ち着かない。「何と言う名前にしようか?」とか先のことを考えていた。しばらくして下保先生が戻ってきていよいよ発表。ドキドキ。
「あれは、はくちょう座新星に間違いありません。ただ私たちが第一発見者ではありません。天文台に問い合わせの電話が多いため、ラジオとテレビで新星情報を流したそうです。」 残念! 第一発見者ではなかった。
星空への招待はその後毎年開催されて10年間続くことになる。


 最近は主にデジカメによる星野写真に、はまっている。写した写真をその場で確認できるのがいい。昔だったらDPEに出してから戻ってくるまでまる1日から、ポジ゙であれば1週間くらいかかった。できあがった写真を見てがっかりということは何度も経験している。キャノンEOS20Daデジカメのもうひとつのいい点は後で簡単に修正がきくということだ。天体写真の場合、対象が淡いものだけに背景とのコントラストが成功失敗の決め手になることが多い。その辺の修正はデジカメ画像であればパソコン上で比較的簡単にできるからだ。
デジカメの出始めのころは画素数も少なく(30万画素くらい)感度もよくなかった。それに感度を上げるとノイズがひどく、さらに長時間露光ができなくてとても天体写真に使える代物ではなかった。しかししだいに改良が進み、今ではフィルム写真に見劣りしないくらいまで向上している。CCDの一番のメリットは相反則不規というフィルム特有の現象が無いことだ。相反則不規とは露光時間と蓄積される濃度が比例しないで、長時間露光した割にはあまりよく写っていない現象をいう。それに対してCCDは露光時間と濃度が比例しているため、比較的短時間で暗い天体を写しこむことができる。そういうわけでいまやフィルムを使うことは無くなりデジカメオンリーになってしまったというわけだ。いま僕が使っているカメラは850万画素の天体写真用として売り出されたキャノンのEOS20Daという機種であるが、撮像素子はCCDではなくCMOSである。ノイズが少なく、赤に対しても感度が落ちないように赤外カットフィルターの透過率を多少調整していている。
いま特に写してみたい天体は星雲・星団だ。どこまで暗い天体に有効なのか試してみたいのだ。これから新月ころには出かける機会が増えてくることだろう。ゴマダラカミキリ
もうひとつ撮影で使う機会が増えてきたのは、WEBカメラだ。30万画素くらいのそれだけではまったく魅力のないカメラであるが、惑星撮影などでは威力を発揮している。動画なので、一秒間に30コマとか写っているわけで、これを1コマ1コマ重ね合わせて合成画像を作る。そうすると1コマでは大した写真ではないものが、驚くほど細かなところまで表現してくれる写真に変身するのだ。これもRegistaxというフリーのソフトが開発されたおかげだ。大気で小刻みに揺れている像を位置合わせして合成してくれるのと、画像処理で見違えるような画像に仕上げてくれるからだ。
天体写真に限らず、これからも植物や動物などの自然写真も撮り続けたい。ゴマダラカミキリのような昆虫も時折望遠鏡に寄ってきたりする。昆虫も望遠鏡に興味津々といったところなのだろうか。自然と接すると心が癒される。これからも心に響くものをいろいろ見つめていけたらいいなと思っている。
記:2006/7/2