クモ(蜘蛛)の糸





ナガコガネグモ(♀)と
白いジグザクの「隠れ帯」という飾り

芥川龍之介の小説に「蜘蛛の糸」がある。
悪人が地獄に落とされるが、生前に、ただ一
つ蜘蛛を助けたことがあるために、お釈迦様
は蜘蛛の糸をたらして助けようとする話だ。
蜘蛛の糸は、昔、望遠鏡の接眼レンズの絞り
環の部分に十字線を張った覚えがある。
ガイド用として重宝したのだが、今はガラスに
ケガいたものなどに取って代わられている。
蜘蛛の糸は丈夫で切れにくいので当時は最高
の自然の恵みであったといえる。
クモの糸でスケールを作る

クモは、昆虫の仲間ではなくて、節足動物
の一種である。昆虫の足が6本であるのに対
してクモは左の写真のように8本である。
また、昆虫は頭・胸・腹の3部に分かれている
のに対し、頭胸部と腹部の2つに分かれてい
る。世界には4万種のクモが生息していると
言われているが、日本には約1200がいる。
その中で人間に影響がある毒を持っているの
は、世界中で30種くらい。
クモは人間より前からいた生物で約4億年
歴史を持っているという。人間が約300万年と
いうのだから桁違いにクモの方が大先輩である。

クモの糸はすべてが粘着性があるわけでは
ない。横糸だけが、下の写真のような粘着球
を糸に付けている。目的に応じて、3〜6種類の
糸を出す腺を体の後部に持っている。
クモは上の写真のように、張った糸の中心の「
こしき」と呼ばれる部分(クモの部屋)に普通は
逆さまになって、獲物をじっと待っている。
獲物が張りつくと縦糸を伝ってか、牽引糸を出し
てターザンのように空中を飛んで獲物のところに
一足飛びに襲い掛かる。そして糸でグルグル巻
きにし、最後に噛みついて神経毒で獲物を麻痺
させる。
糸は結構弾力性があって、ちょっとやそっとでは
切れることはない。糸の強さはカイコの糸よりも
強いという。世界のクモの中には、これで鳥を
捕まえるのもいるらしい。


  横糸の粘着球


糸を出す糸イボ


蜘蛛の糸
クモの足に自分の糸がくっつかないのは、カギ
方の足先の形と、その表面が接着しにくい物質で
コーティングされているからだと言われている。

クモは多産である。1度に100匹くらいは生むらしい。子グモがいるところに棒などでちょっかい
を出すといっせいに四方八方に逃げ出す。その様子はまさに「クモの子を散らす」ということばに
ぴったりである。
クモの世界も女性上位だ。図体もメスの方が断然大きい。1ケタも違う。クモは交尾の後、へた
をするとオスは食べられてしまう。女郎蜘蛛のイメージはここから来たのだろうか?
芥川の「蜘蛛の糸」に出てくる糸は右上図の牽引糸のことだ。自分の体内から作り出された糸
で、自分の体重を支えているのだからすごい。それも、安全性を見込んでか、平行な2本の糸が所
々でくっついたものになっているという。
体から離れたとき、糸は固まらなければならない。この様子は、グラスファイバーの作り方に似て
いるかもしれない。溶融したガラスをルツボから細い穴を通して下に落ちるようにして引き出すと、
細い糸が出来あがる。ひょっとすると、クモの糸からこの製法を思いついたのかもしれない。
クモの糸は、元はタンパク質なので、牽引糸を伝って昇って行くときには、それを口から食べて再
生産している。古い糸も同様に再生産している。人間には及びもつかない技である。
リサイクル
の神様と言ってもいいかもしれない。
「蜘蛛」という字
 「蜘」は「虫」と「知」からできている。「知」の昔の形は「はたおる」という意味を持っていたという。
そのため、「機織り虫」となる。
「蛛」は「虫」と「朱」からできている。「朱」は「殺す」という「誅」(ちゅう)からきているというから、
「殺す虫」となる。
それで「蜘蛛」は機織りのように網を張って殺す虫という意味になる。

■クモの糸の張り方(円網)
 クモがたくみに糸を張っていく、その過程をご覧ください。

参考:
・大崎茂芳著「クモの糸のミステリー」(中公新書)
・マイケル・チナリー著、斉藤慎一郎訳
  「クモの不思議な生活」(晶文社)