ロング・トム



星の神話伝説などの著書で知られている野尻抱影さんが愛用していた望遠鏡は日本光学製の口径100mmの屈折式経緯台だった。その望遠鏡に野尻さんは「LONG TOM」と刻印している。宝島に出てくる海賊船につけられていた大砲の名前である。知人が送ってくれた盛岡天文同好会の会報(No.74:2006/12)にこの望遠鏡についての記事が掲載されていた。五藤光学の児玉光義さんが調査した結果をまとめたものである。
 この望遠鏡はツァイスの望遠鏡を手本に日本光学が独自に製作したものだという。野尻さんはこの望遠鏡を使って自宅で観望会を開いて知人に天体のすばらしさを伝えていたのだろう。観測風景の写真が会報に載っている。望遠鏡購入直後の自宅の縁側での記念写真(左下)と、着物姿の野尻さんが星を説明している姿(右下:撮影は昭和15年9月11日)が印象的である。「指さすアンターレス」とあるから、夏の星々をみんなに説明しながら星を見せているときの一枚ということになる。
 望遠鏡には10倍32mmのファインダーが付いているが微動装置は付いていないようだ。観測には恐らく苦労したに違いない。同等の望遠鏡が昭和天皇にも納入されているが、こちらは微動装置付き。天皇自身も天体に興味があったことが覗える。ロング・トムは当時600円余りという値段だったらしいが、今の価値に換算するといくらになるのか分からないが相当高価なものであったことは確かだ。ロング・トムは横浜の港の見える公園内にある大佛次郎記念館に保管されている。
記:2007/1/6