金子みすゞ と 星


    星とたんぽぽ

 青いお空のそこふかく、
 海の小石のそのように
 夜がくるまでしずんでる、
 昼のお星はめにみえぬ。
    見えぬけれどもあるんだよ、
    見えぬものでもあるんだよ。

 ちってすがれたたんぽぽの、
 かわらのすきに、だァまって、
 春のくるまでかくれてる、
 つよいその根はめにみえぬ。
    見えぬけれどもあるんだよ、
    見えぬものでもあるんだよ。


金子みすゞ、26歳の若さでこの世を去った童謡詩人。
ぼくが生まれる45年前の同月同日(4月11日)に山口県の仙崎にみすゞは生を受けた。
その生涯に、500あまりの童謡詩をつくる。西條八十に認められながらも、夫に詩作を禁じら
れたり、不治の病を負った悲しみからか非業の死(自殺)を遂げている。けれども、彼女は、詩
作を禁じられてからも、わが子が話すことばを丹念に書き留めて、ことばの持つ神秘さ、奥深さ
に感動していた。もっと長く生きて詩を作りたかったに違いない。
3歳になったばかりのわが子のことばを書き留めた「南京玉」。その冒頭に書き添えたみすゞの
ことばがそれを物語っている。


 「なんきんだまは、七色だ。一つ一つが愛らしい、尊いものではないけれど、 
 それを糸につなぐのは、私にはたのしい。
  この子の言葉も、そのやうに、一つ一つが愛らしい、人にはなんでもないけ 
 れど、それを書いてゆくことは、私には、何ものにもかえがたい、たのしさだ。 
  南京玉には、白もあるし、黒もある。この子の言葉は、意味はなくとも、また 
 「詩」なんぞはなほのこと、えんもゆかりもなくっても、ただ「創作」でさえあれ 
 ば、残らず書いてゆく事だ。」


矢崎節夫さんによって、眠っていた詩が掘り起こされ、JULA出版から全集が発行されている。
矢崎さんがはじめてみすゞに出会ったのは、岩波文庫の「日本童謡集」(現在も発行されてい
る)に載っていたただ一編の詩「大漁」であったという。この出会い以来、彼の、みすゞの詩を
求めての旅が始まる。

 
       大漁


     朝焼小焼だ
     大漁だ
     大羽鰮の
     大漁だ。

     浜は祭りの
     ようだけど
     海のなかでは          
     何万の
     鰮のとむらい
     するだろう。


             (註) 鰮(いわし)

みすゞの詩には、見えないもの、弱者へのやさしさがあふれている。
みすゞ(本名:テル)は、詩作を禁じられてから、3冊の手帳に、丹念に
自作の詩を清書して残している。それぞれに題名がついている。




・第1童謡集 「美しい町」

・第2童謡集 「空のかあさま」

・第3童謡集 「さみしい王女」

彼女の詩に心ひかれるファンは多いと思う。
星の歌は他にも多く作っているが、とくに「星とたんぽぽ」が好きだ。
宇宙のそこはかとない深さを感じるからだ。