木喰の歌



山の神像(下部町 1801年作)

木喰(もくじき)上人。1718年、甲斐国八代郡丸畑村に
生まれる。22歳で出家した後、1773年56歳のときに全
国行脚の旅に出る。それ以来北海道から九州までの寒
村を訪ねては、木彫りの仏像を作っていった。世に言う
微笑仏の誕生である。左の像は、山梨県下部町(丸畑)
に残る山の神像で、笑い仏ではないが、ほほのあたりが
ふっくらとしていて怖さは感じられない山の神だ。
円空の一刀彫りと比べられる一品だと思う。

木喰は、微笑仏とともに、93歳で亡くなるまでに多くの
おもしろい歌を残している。
薬如来画像(1806年作)


仏法にこりかたまるもいらぬもの 弥陀めにきけば嘘のかたまり

木喰の鼠衣はよけれども 猫やいたちはかたきなりけり

●木喰のけさや衣はやぶれても まだ本願はやぶれざりけり

朝寝して呑んづ喰らふつまた昼寝 まだ寝たらぬや居ねむりぞする    

銭とりと飯くふ事は達者なり 仕事を見れば弱い事哉

旅をして衆生の飯をくひつくせ 仏の鬼になるは定石

旦那様氏も系図もいらぬもの お前も俺も非人こつじき

ぬかり道とびとび行くやあほうもの 汚れてみれば何のいとはん

念仏に声をからせど音もなし 弥陀と釈迦とは昼寝なりけり

巳の年はまめでうち込み福は内 外には鬼が野宿なりけり

木喰は悟りのまねの阿呆もの よくよくみれば馬鹿の人間

六道をつくしてみれば何やらむ 仏も鬼も心なりけり

まるまるとまるめまるめよ我心 まん丸丸く丸くまん丸

木喰にみなだまされてきてみれば 仏法僧の浄土なりけり


木喰の人間味あふれる歌で、なかなかいい。木喰さんは、きっと、お高くとまったお坊さん
ではなくて、庶民に親しまれた旅の僧であったのだろう。人に乞われればその場で仏を彫
っていった姿が想像できる。最後の二つの歌に木喰の人生観そのものが表れていると思う。
微笑仏と「まるまると・・・」の歌は、互いに呼応しあっている。