日食の記憶


月食は案外見過ごされてしまうことが多い。もともと外は暗いし、よほど空に興味がある人でない限り、月を見に外に出てくる人はいない。しかし太陽が月に大きく隠される日食の時にはあたりが暗くなり異常を感じるため多くの人が眼にすることが多い。

 そのような日食で思い出すのは1958年(昭和33年)の日食である。このときは東京の練馬区に住んでいたが、南の八丈島では金環食が見られた年であった。小学校4年の新学期が始まって間もない4月19日だった。学校に行くと午前中の授業は普通に行なわれたが、午後の授業は「今日は早く家に帰って日食の観察をしてください」ということでみんな一斉下校。歩いて2〜3分くらいのところに家があったから、家に帰るなりガラスのかけらにロウソクの煤をつけて太陽観測用のサングラスを作る。覗いてみると太陽の右下がすでに欠けはじめているのがわかった。まるで虫にかじられたみたい。どんどん欠ける度合いが大きくなってくる。これがはじめて見る日食であった。このころは望遠鏡は持っていなかったので肉眼での観測だった。ロウソクの煤で作るサングラスは実は赤外線や紫外線などを通してしまうためあまり薦められる方法ではない。長時間観測していると眼に熱さを感じたり疲れたのを覚えている。途中昼飯を急いで食べてまた外に飛び出した。両親とも興味を持ったらしく一緒に日食を見守っている。昼間だというのにあたりは夕方みたいに薄暗くなり肌寒さを感じた。ニューギニアなどの未開の世界に行くと日食を恐れて外には出てこないという話を聞いたことがあったがもっともだと頷けた。ふと木陰を見てびっくり。三日月がいっぱいできている。葉っぱの重なりが作り出した針穴写真機で三日月状に欠けた太陽像をたくさん作っていたのだ。葉っぱが風にゆれると三日月も移動した。三日月がお互いに重なり合って不思議な光景を作り出していた。作られた針穴の大きさもいろいろなのでピントのはっきりしたものもあればぼやけたものが重なりあっている。1時20分ころが日食のピークであった。食分は0.88。9割近く欠けたことになる。元に戻るにつれてまわりも明るさを取り戻していった。3時前にはすっかり元通りの太陽になっていた。
Stellanavigatorで日食再現
Stellanavigatorで日食再現(13:19)
Stellanavigatorで日食再現
Stellanavigatorで日食再現 (11:40-14:55 15分間隔)



1969/3/18部分日食1978/10/2部分日食
 1969年3月18日、大学2年のときだった。当時はダウエル光学(成東商会)から購入した6cm屈折赤道儀を使っていた。これが購入できる限界の価格だった。自宅前の3階建てビルの屋上に上がり観測した。食分は0.17。ほんの少し欠けただけだった。この写真は藤井旭さんの「天体写真の写し方」に掲載される。



 1978年10月2日。この日は会社の3階で仕事をしていた。日食があるのはあらかじめ知っていたので、撮影の道具一式を持ち込んでいた。西に太陽が傾き始めると、ビル越しに欠けゆく太陽を眺めることができた。500mmレフレックス望遠による撮影。食分は0.35。


 1981年7月31日。埼玉の自宅での観測。6cm屈折での撮影であったが、このときにはひとつの笑い話が残っている。観測を終えて、望遠鏡をしまおうとして対物レンズを見てびっくり。ダイコンの葉っぱが1/3ばかりレンズを隠していた。葉っぱが減光の役目をしてくれたということらしい。このハプニングで撮影の露光がうまくマッチしたのだった(^-^;)。しかし未だにどうしてダイコンの葉が対物レンズに落ちたのかは不明だ。食分は0.60。 太陽の縁がぎざぎざしているのは地球大気の揺れに因る。1981/7/31部分日食
1981/7/31部分日食

2002/6/11部分日食
天気図
 2002年6月11日明け方の部分日食。台風4号が九州・四国方面に接近。空は雲で覆われていたが、所々に切れ目があり、そこに太陽が顔を覗かせてくれた。7時10分ごろは良く晴れたが、その前後は雲が足早に太陽の前面を通過していった。食分は0.46。

2004/10/14部分日食

 2004年10月14日。会社の駐車場で観測。埼玉では、日食が始まっている時刻になっても厚い雲。それでも11時20分過ぎくらいから雲の切れ目ができて欠けた太陽の姿を見ることができた。雲がかかったおかげで減光しなくても肉眼だけで結構楽しめたのは幸運と言えるだろう。肉眼だけで欠けた太陽の姿を見るのはむしろ幻想的でもあった。
日食は10:45〜12:36の約2時間の間であったが、最も欠けたのは11:41で直径の24%まで月が入り込んだことになる。
   


1991/7/11メキシコ皆既日食

★日食の観測は何回かしてきたが未だコロナが美しい皆既日食やリングのできる金環日食を見たことがない。幻想的な日食をぜひ一度は見てみたい。
1987年9月23日は沖縄で金環日食が見られたときであるが、このときはサンシャインプラネタリウムで日食の中継をしながらの講演会があった。当日は講師として話をしたが現地で日食を見たかったなー。

(1991/7/11 メキシコでの皆既日食 撮影:川島 武さん
記:2006/7/10