【超広角の眼】

 地球上には多くの生物が共存しています。そして、ほとんどの生物が眼という道具を持っています。これから、いくつかの動物たちの眼と望遠鏡との関連についてお話ししたいと思います。きっと皆さんもあらためて、自然の偉大さに目を見張ることでしょう。
 まずは「ほたて貝の眼」のお話です。「えっ! ほたてにも眼があるの?」と思うでしょう。 二枚貝でも「はまぐり」などには眼はありませんから、これはちょっと意外かもしれません。食べ物をロにするとき、魚はともかく貝の眼などに注意したことがある人などいないのではないでしょうか。食べておいしければ、それでいいですからね。でも、ほんのちょっと私の話にお付き合いください。
 ほたて貝をよく見ると、周辺に直径1ミリくらいの緑色、あるいは赤紅色の眼がほぼ同間隔で並んでいるのに気がつくでしょう。こんな小さな眼に隠された秘密を、内緒でお教えしましょう。(写真1
 ほたて貝の眼を模式的に描いたのが図1です。まずレンズみたいなものがあって、そこを光が通過します。その光は後の面で反射されてレンズと反射面の中間に集まります。そこに視細胞という光を捕らえるものが並んでいて像を見るしかけになっているんです。よくもここまで調べた人がいるもんですね!
 ここまでお話しすると、ハッと気がつく人もいるでしょう。望遠鏡に興味がある人なら、これがどこかで見かけた光学系に似ていると思うに違いありません。
1932年のハンブルグ天文台報告に「明るいコマのない反射光学系」として発表された、ベルンハルト・シュミットが考案したシュミットカメラ図2)の構造とまったく同じなんです。
 これは、広い範囲にわたってすぐれた星像を結ぶために、今日でも多くの天文台で使われている光学系です。前にあるレンズは球面ではなくて、高次の非球面です。こんなすぐれた眼をほたて貝が持っているとは驚きです。
 ほたて貝の眼1個の視野は実に100度にも達します。そんな眼が60個もあるのですから、ほたて貝の制御系がどんなになっているかにも興味が持たれるところです。だって60個の眼からの情報をどうやって処理して行動しているのか、不思議とは思いませんか?人間はたった2つの眼でも扱いきれないときもあるというのに・・・。




【図1 ほたて貝の眼とその構造】


【写真1 ほたて貝】


【図2 シュミットカメラの光学系】