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人間の感じ取ることができる明るさの範囲が非常に広いのにも驚きます。6等星の明るさから、太陽の明るさまで実に10兆倍の明暗の差を読み取ることができるのです。これが可能なのも、入間の眼が「対数的に明るさを処理する能力」を進化の過程で獲得してきたからなのです。明るいものは、明るさを圧縮し、暗いものは感度を上げて見えるようにしています。電気光学の世界でいう「光センサー+ログ(対数)アンプ」が、まさにこの働きをしています。人間が高度と自負している電子工学技術を、眼はすでに実現しているのです。 人間の眼には、まだおもしろいことがいっぱいあります。たとえば涙です。涙は眼をいつもきれいにしておくための自動洗浄装置です。カメラのレンズでこんなものがあるでしょうか? 自動的にレンズ面に付いたほこりを払って、きれいにしてくれるものかあったらいいとは思いませんか?天体撮影中にレンズに露がつき、せっかくの写真がおじゃんになった経験を持っている方も多いでしょう。こんな時、露払いの装置があれば便利です。眼は、この作業を涙により、みごとにやってのけているのです。 また、眼は無意識のうちに1秒間に100回以上の微小運動(固視微動という)をしています。視角でいうと20〜40秒角の振幅です。これは、網膜上の動きでいうと、視細胞1〜1.5個分に相当する小さな振幅です。でも、これがどうも重要な働きを持っているようです。装置を使って無理やりこれを止めてしまうと、数秒であたりの景色は消え失せて何も見えなくなってしまいます。眼は動くことで物を認識しているようです。人間の眼の最小分解能が角度1分というのも、この固視微動と視細胞の大きさに関係しているのでしょう。 さて、「生物に学ぶ光学系」の話はいかがでしたか?普段ついつい見過ごしてしまう事実に結構おもしろい秘密が隠されていることに気づかれたことでしょう。自然をあらためて見つめ直すと、新たな光学系やアイデアを発見できるかもしれません。人間が作り出したものは、自然のほんの一部の再現に過ぎないのですから・・・。 |