CCDカメラの発達(超銀河団とボイド)

 われわれが住んでいる銀河系には、約1000億から2000億個の恒星が含まれていると言う。そして電波観測から、何本かの渦巻き腕を持った渦巻き構造をしているらしい。これも、銀河系の外へ行って直接見たわけではないので確定はできない。野辺山の45m電波望遠鏡の詳しい観測からは、単なる渦巻きではなくて中心から横に棒状のものが出ている棒渦巻き構造をしている可能性があるという。これからの観測しだいでは、われわれが空想してきた銀河系像が一新される可能性もあるのだ。
 銀河系から外の宇宙空間に飛び出すと、17万光年のかなたに大小2つのマゼラン銀河、約230万光年にはアンドロメダ銀河など、およそ300万光年の範囲内に約30個の銀河が発見されている。

  マゼラン銀河

 昔、「マゼラン銀河」などは「星雲」と呼ばれていたが、銀河系内にある雲状のガスの集まりに対しても「散光星雲」と言った名前で呼ばれていて紛らわしいので、最近では、銀河系外の星の大集団に対しては「銀河」と呼ぶようになっている。われわれの星の集団も「銀河系」と呼ばれて紛らわしい面はあるのだが、この辺は文脈でどちらを指しているのか判断がつきやすい。

 我々の銀河系の近くでは、30個くらいの銀河がひとつの集団を作っている。おとめ座方向約5000万光年の所には、大小取り混ぜて約2000個の銀河が1000万光年の広さの中にひしめいている。また、かみのけ座方向2億5000万光年のかなたには約1000個の銀河が寄り集まっている。どうも銀河は集団を作りやすい。これを「銀河団」と呼んでいる。
 それでは、もっともっと遠くの様子はどうなのだろう。1981年にアメリカの天文学者によってうしかい座の方向、数億年かなたに、約2億光年の広さの中に、銀河がまったくない空っぽの世界があることを発見した。その後、詳しく調べてみるとこういう空っぽの空間がいくつも発見されるようになり「ボイド」と呼ばれるようになった。銀河の集まりである銀河団がお互いに集まってさらに大きな集団を作っているらしい。ちょうど石鹸で泡をいっぱい作ったときを想像してほしい。この泡の表面にいっぱい銀河が張りついていて、泡の中は何もない空っぽの世界。これがどうも今、天文学者が描いている宇宙の壮大な構造図のようだ。泡に張りついたような銀河団の集まりを「超銀河団」と呼んでいる。どこの世界でも言葉に窮してくる。天文の世界でも言葉が不足してきて、今流行の「超」が接頭語で付いてきているのか!

  銀河(白い点)の分布とボイド

 これらの発見にはCCDカメラが活躍している。家庭用デジタルカメラの高感度版と考えればいいだろう。一昔前までの観測は写真フィルムが主役であったが、CCDカメラの普及につれて天文台の観測のほとんどがCCDに変わろうとしている。アマチュアの世界も同様である。昔だったら、一晩かかっていた撮影も今では30分もあれば済んでしまうという。これはとらえた光を変換する効率がフィルムでは1%程度であるが、CCDの場合には波長によっては100%近いものまで現われているためだ。
 CCDカメラもいいことづくめではない。電子機器につき物の雑音(ノイズ)が、天体みたいな暗い対象を写す場合には問題となる。ホームビデオやデジタルカメラで暗いところを写した経験のある人なら分かると思うが、暗闇の中にざらざらした粒々が写っているあれだ。このノイズを減らすには、CCDを冷やせばいい。温度を10度下げると、ノイズが半分になると言われている。日本では岡山天体物理観測所が初めて冷却CCDカメラを開発して1985年頃から使い始めている。今ではCCDを冷やすのにペルチエ素子というものがあるので、これを使って外気温より50度くらいまで下げることができる。プロが使う液体窒素冷却法だと−120度まで下げることができるという。
 ホームビデオカメラと違って、冷却CCDカメラで写した画像はコンピ
ューターに取り込まれ、ここでいろいろな画像処理を行なってはじめて驚異的な写真ができあがるのだ。だから、撮影よりも後処理に時間がかかる。ここに掲載した火星の写真は、ドイツのアマチュア天文家のコッホさんのものだが、わざとぼかしたような写真とシャープさを強調した写真や数枚の写真を重ね合わせたりして最終的な写真に仕上げている。上段がその方法を、下段左側の2枚の写真が出来上がり写真だ。右下のは、ハッブル望遠鏡の写真。コッホさんが使った望遠鏡はセレストロン14というから口径35cmであり、片やハッブル望遠鏡は250cm、それも大気圏外であることを考慮に入れると、冷却CCDカメラの威力が分かるだろう。

  冷却CCDカメラによる火星(Bernd Koch)


 もうひとつ、おもしろい画像をお目にかけよう。こちらもアマチュアで活躍している上原秀夫さんの作品だ。木星と土星の写真である。これは、ビデオ録画したものをパソコンで画像処理したものであるが、これには少し説明が必要であろう。テレビ画面は1/30秒で1画面(コマ)を作るようになっている。そこで上原さんは、口径21cmの望遠鏡にCCDカメラ(冷却ではない)を取り付けて、それぞれ90秒間、木星と土星をビデオ撮りした。これは写真枚数に直すと2700枚写したことに相当する。ビデオの画像をパソコンに取り込むためのビデオキャプチャーなるものを使って、2700コマの中から64コマを選び出して、それを合成(コンポジットという)したのである。
1コマではノイズが多いが、こうすることによってノイズが減り、模様が強調されて鮮明な写真に仕上がるというのだ。これもCCDカメラの新しい使い方と言えよう。

ビデオ画像の64枚コンポジットによる土星(上原秀夫氏による作品)



ビデオ画像の64枚コンポジットによる木星(上原秀夫氏による作品)

 また、最近は画素数の多いデジタルカメラが普及している。これを利用しての撮影者もこれから増えていくことだろう。