星から光は、かすかなものだ。ちょうどささやきにも似た微妙な中に多くのものが隠されている。わずかなささやきを拡大して聞くために、人は、望遠鏡を発明した。望遠鏡の巨大化への道は、人類が避けて通れない道で、今もまだ続いている。

宇宙に開かれた窓


 古代の人々は星空を見上げて、何を思い、何を考えたのだろうか?
われわれ人間は新しい道具を作りだし、それを利用することによって、与えられた感性と知性の拡大をはかってきた。特に望遠鏡の発明による「目の能力の拡大
」は、宇宙に対する考え方を一変させてしまった。その足跡をたどってみることにしよう。


   すばる(M45)

 
 地球上に住むわれわれは、普段、物を見るのに肉眼だけで事が足りている。必要に応じてメガネをかけたりしているが・・・。結局は、地球という環境の中で進化してきた経過が、現在のわれわれを作っているといえる。われわれが自分の能力を拡大したとき、そこに新しい問題が提起される。「大気の窓」がそのひとつだ。大気の窓を通して、遠い宇宙を眺めているが、すべての情報がこの窓を通過しているかというと、そうではない。
カメラのフィルターが、ある範囲の光をカットするように、大気の窓に吸収されて地上に届かないものもある。可視光線と言われる光の範囲は、図のように非常に狭い。ほとんどの天体観測がこの光を通して行なわれてきた。


 天体からは、可視光線だけでなく、いろいろな波長の電磁波がやってくる。波長の短いガンマ線X線紫外線の一部などは、大気上層のオゾン層で吸収されて地上まではやってこない。また、ほとんどの赤外線が大気に含まれる水蒸気に吸収されてしまう。地上の動物にとってはこれらの光線が有害であるので、大気が保護の役目を持っているのだ。最近、オゾン層が破壊されて「オゾンホール」が問題になっているが、生命を守る防御壁が壊されたのだから大問題である。太古の時代に海から生物が陸に上がるためには、このオゾン層が重要な働きをしたと考えられている。しかし、天体からのいろいろな情報を得ようとする立場で考えると、大気での吸収は、情報の一部が欠落するのだから問題である。これを補うために、水蒸気が少ない高山に天文台を作ったり、気球を上げたり、大気圏外に出たりする必要が生じてくる。
 大気に開かれた窓には、もう一つ、波長の長い電波(波長がミリメートル〜メートル程度)がある。電波望遠鏡の発明によって、また新しい宇宙像が描かれてきているのだ。