現代はよく無信仰の時代と言われる。それでいて古寺を訪ねる人々の数が逆に増大している。修那羅峠の石仏(長野県)これはどういうことか?古いものへの憧れ・・・ただそれだけではないだろう。古いものがすべて良いとも悪いとも言い切れない。それとも現代社会からの逃避でしかないのか。そういう人間もいるかも知れない。しかしそれと同時にもっと積極的な意味を古寺あるいは石仏に求める人間もいる。
 今まで日本は西洋思想をもって、自然を征服しようとしてきた。しかし、その結果は公害国日本という汚名を着せられることになってしまった。目を古寺あるいは石仏に向けた時、人々はそこに活き活きとした自然と共存している姿を見出すことができる。苔むした石仏に注目すると、時間を置いて写した同じ石仏の写真上の苔の状態が変化しているのがわかる。空気の汚れた都会では苔生すこともない。これは苔が環境指標の役目を果たしていると言えるからだ。石仏は決して過去のある時間で止まってしまった遺物ではない。過去の創造物であった石仏は今も生き続け、われわれにひとつの思想ー自然との共存思想ーを提供してくれるのである。

村と村の境や辻にはよくお地蔵さんが立っていました。災厄が村に入ってくるのをお地蔵さんが防いでくれると考えていたんでしょう。そんなお地蔵さんだから、毎日お供えものをしたり、毎年赤い前垂れを着せかえたりしてお返しをしてきたんだと思います。傘地蔵という昔話をふと思い出しました。今でも辻に立つお地蔵さんに供え物をしたりする習慣を受け継いでいる人たちはいますが、そのやさしい心を若い人たちが受け継いでいってくれたらうれしいですね。石仏はきれいにしてもらえることもうれしいでしょうが、苔むした姿もうれしそうに見えます。自然の一部なんだよと、身をもって訴えているように見えます。それを感じることができるから、ぼくは石仏に惹かれてしまうのかもしれません。石仏散歩に何年費やしたかを考えてみますと、天文よりも長いんですね。40年以上ということになります。星をやりながら、背後に常に石仏があったように思います。天体という普段とはかけ離れた世界から、現実の世界に引き戻してくれる懸け橋に石仏があったように思うのです。光と影のありように殊更魅かれていることが、石仏に興味を持たせるひとつの誘因になっているとも思います。石仏写真で一時モノクロ写真にのめりこんだ時期がありました。石仏はモノクロに限ると思ったりしていました。モノトーンの世界が石仏には似つかわしいと思ってもいました。しかし、このごろはモノクロでは表現しきれない場合もあることが分かり、このこだわりは捨てています。

【 仏像の組織 】 
仏像にはいろいろな種類がありますが、大きく4つに分けることができます。
■如来・・・さとりを開いた者
       釈迦如来、薬師如来、阿弥陀如来、大日如来など
■菩薩・・・如来めざして修行中の者。将来如来になるために、一所懸命修行している者。
       弥勒菩薩、文殊菩薩、普賢菩薩、虚空蔵菩薩など
■明王・・・大日如来の分身。密教の中で考え出された者。
       不動明王、愛染明王など
■天  ・・・いろいろな神様。仏教ができる前からインドの人たちが信じていたたくさんの神様が仏教にとりいれられた者。
       四天王〈多聞天(北)、持国天(東)、広目天(西)、増長天(南)〉、毘沙門天、十二神将、吉祥天、弁財天など
山本 勉 著 「仏像のひみつ」 より

石仏の魅力に誘われた本
・ほとんどがすでに絶版になっているんではないでしょうか。思い出深い本たちです。
  「石仏のこころ」(若杉 慧)
  「羅漢(仏と人との間)」(梅原 猛)
  「石仏の美」〈全3巻の写真集〉(佐藤宗太郎・大護八郎)
  「石仏の解体」(佐藤宗太郎)
  「私の石仏地図手帳」〈全10巻〉(大護八郎)
  「仏像図典」(佐和隆研) ほか

  「バウッダ(佛教)」(中村 元、三枝 充悳)
  「大和路」(田中真知郎)
  「武蔵野」(田沼武能)
  ・最近読んだ本には次のようなものがあります。(2009/7/5)
    「野仏の見方」(外山晴彦、ポケットサライ)
    「神社の見方」(外山晴彦、ポケットサライ)
    「日本の石仏200選」(中 淳志)
    「石の宗教」(五来 重 )
    「山の宗教」(五来 重 )
    「石仏探訪必携ハンドブック」(日本石仏協会編)

    「仏像のひみつ」「続 仏像のひみつ」(山本 勉)
    「仏典を読む(死から始まる仏教史)」(末木文美士)
    「道元禅師」(立松和平)
    「写真芸術:石仏に魅せられて」(井上清司)
    「季刊 日本の石仏」(日本石仏協会編)
    「サルタヒコの旅」(鎌田 東二)

    「神話と日本人の心」(河合隼雄)
    「釈迦」(瀬戸内寂聴)
    「風の良寛」(中野孝次)
    「日本人の宇宙観」(荒川 紘)
北条石仏(兵庫県) 臼杵石仏(大分県) 塩の道石仏(長野県) 日光開山堂石仏(栃木県)
Photo : 加藤 保美
 堂をめぐる道に居並ぶ石仏の 風貌も枯れ果てて無音に (父: 利博)