昭和史




戦後の昭和23年に生まれた者にとって、戦争の過酷さは知らず、親たちが経験した事柄も時折耳にするくらいのものである。それでも自分が生まれた頃の時代背景を見直してみたいという欲求は以前からあった。ただ、戦争・天皇・兵隊の話などが出てくると何か反発があった。何も知らずに過ごすこともできるだろうが本当はどうだったのか知りたい。以前に田原総一朗の「日本の戦争」を読んでその感想を書いたが、いまいち納得がいかないところが多かった。そこであらためて他の本を探しているときに半藤一利さんの「昭和史」に出会った。半藤さんはどういう人だったのかは知らなかったので後ろの経歴を見ると文芸春秋などの編集長をした人とあった。こういう人であれば公正な判断で物事を書いているに違いないと思い、読み始めることにした。あとがきにあるようにこの本は元々戦争を知らない人たちに寺子屋風に講義した言葉を本にしたものなので、非常に分かりやすい。それに物をズバッと言うので読んでいても気持ちがいい。
この本を読んで先の戦争がいかにばかげたものであり、そこに至るまでの経過が何とおそまつなものであったがわかる。こんなことは決して教科書にはでてこない話だろう。当時の上層部の人たちの判断が何ともお粗末で、そんな人たちのいい加減さで、日本がとんでもない道に迷い込んでしまった。それと、当時の新聞をはじめとするマスコミが戦争を煽っていたのもわかる。そして国民もいい気になってその扇動に乗ってしまっていた。
これらのことは過去のことではあるが、今の世界にもまったく当てはまる。今の安倍政権がやろうとしていることも過去の悪い歴史の繰り返しのように思えてならない。教育基本法改正がすんなりと通ってしまって、教育が政治の下に組み込まれてしまった観が強い。さらに防衛庁が防衛省に格上げされたし、来年には憲法改正に動こうとしている。これから政府が法律で教育をどういう風に持っていくのか、そして核保有や軍事大国にならないように厳しく監視していかないと戦前の危ない世界に戻ってしまう危険性を持っていると思う。しっかりとみんなで監視していくことにしましょう。



戦前篇・目次
・昭和史の根底には"赤い夕陽の満州"があった―日露戦争に勝った意味
・昭和は"陰謀"と"魔法の杖"で開幕した―張作霖爆殺と統帥権干犯
・昭和がダメになったスタートの満州事変―関東軍の野望、満州国の建国
・満州国は日本を"栄光ある孤立"に導いた―5・15事件から国際連盟脱退まで
・軍国主義への道はかく整備されていく―陸軍の派閥争い、天皇機関説
・2・26事件の眼目は「宮城占拠計画」にあった―大股で戦争体制へ
・日中戦争・旗行列提灯行列の波は続いたが…―盧溝橋事件、南京事件
・政府も軍部も強気一点張り、そしてノモンハン―軍縮脱退、国家総動員法
・第二次大戦の勃発があらゆる問題を吹き飛ばした―米英との対立、ドイツへの接近
・なぜ海軍は三国同盟をイエスと言ったか―ひた走る軍事国家への道
・独ソの政略に振り回されるなか、南進論の大合唱―ドイツのソ連進攻
・四つの御前会議、かくて戦争は決断された―太平洋戦争開戦前夜
・栄光から悲惨へ、その逆転はあまりにも早かった―つかの間の「連勝」
・大日本帝国にもはや勝機がなくなって…―ガダルカナル、インパール、サイパンの悲劇から特攻隊出撃へ
・日本降伏を前に、駈け引きに狂奔する米国とソ連―ヤルタ会談、東京大空襲、・沖縄本島決戦、そしてドイツ降伏
・「堪ヘ難キヲ堪ヘ、忍ビ難キヲ忍ビ…」―ポツダム宣言受諾、終戦
・310万の死者が語りかけてくれるものは?―昭和史20年の教訓



戦後篇・目次
・天皇・マッカーサー会談にはじまる戦後―敗戦と「一億総懺悔」
・無策の政府に突きつけられる苛烈な占領政策―GHQによる軍国主義の解体
・飢餓で"精神"を喪失した日本人―政党、ジャーナリズムの復活
・憲法改正問題をめぐって右往左往―「松本委員会」の模索
・人間宣言、公職追放そして戦争放棄―共産党人気、平和憲法の萌芽
・「自分は象徴でいい」と第二の聖断―GHQ憲法草案を受け入れる
・「東京裁判」の判決が下りるまで―冷戦のなか、徹底的に裁かれた現代日本史
・恐るべきGHQの右旋回で…―改革より復興、ドッジ・ラインの功罪
・朝鮮戦争は"神風"であったか―吹き荒れるレッドパージと「特需」の嵐
・新しい独立国日本への船出―講和条約への模索
・混迷する世相・さまざまな事件―基地問題、核実験への抵抗
・いわゆる「55年体制」ができた日―吉田ドクトリンから保守合同へ
・「もはや戦後ではない」―改憲・再軍備の強硬路線へ
・60年安保闘争のあとにきたもの―ミッチーブーム、そして政治闘争の終焉
・嵐のごとき高度経済成長―オリンピックと新幹線
・昭和元禄の"ツケ"―団塊パワーの噴出と三島事件
・日本はこれからどうなるのか―戦後史の教訓

記:2006/12/16