月と日本建築


日本人は昔から月に親しんできた。夜の闇の恐怖から開放してくれる月明かりは、灯りの乏しかった時代ほどありがたいものだったと思う。中秋の名月のお月見など今でも風習として残ってはいるものの、月見だんごやすすきを飾ったりといったことをやる人はとんと少なくなってきたのも事実だ。
 最近、出版された本で「月と日本建築」は、まず題名から惹かれてしまった。月見を目的として、庇(ひさし)の出を少なく、高い所に作る建物が現存しているのをこの本で初めて知った。
それは桂離宮や銀閣寺、そして伏見城など名の知れた建物なのだが、それぞれを細かく見ていくと、明らかに月見を目的とした建て方をしてるというのだ。特に桂離宮の一つの建物は東南29度の方向を向いて建てられている。これは、この建物が建てられた1615年の中秋の名月の出の方向と完全に一致しているという。
月への執着心の強さをこの本を読んでいて痛切に感じた。特に銀閣寺を作った足利義政の執着心は狂気に近い。京都を訪れたときに見た銀閣は好きな建物のひとつであったが、その背後の人間の姿を見ると、今までの認識が覆させられる。
ストーンヘンジ、ピラミッドなど方位を考えた建物は世界各地に見られる。しかし月を題材にした建物は日本で特にに目立つようだ。砂漠の民は月と星を大切にする。ぎらつく太陽が悪魔的に見えても、月は彼らにとって大切な友であるに違いない。日本人は彼らと共通の認識の上にたっているわけではない。日本の場合、それは「わび、さびの世界」と結びついた遊びのひとつとなっていると言えないだろうか?
「月と日本建築」(桂離宮から月を見る)
宮元健次 著 、光文社新書
2003/08/27