日本人の宇宙観


宇宙に対する認識は、東洋と西洋は異なっている。さらに東洋でも、中国、インドなどとも違っている。仏教が入ってきてもそのまま受け入れるのではなくて、日本的に取捨選択し、現実の世界に合わせる。これは、他の道教、キリスト教などについても同様である。
最近発売された「日本人の宇宙観−飛鳥から現代まで」(荒川紘著、紀伊国屋書店発行)は、そんな日本人特有の考え方を分析している。日本人の心の中に、記紀の影響が脈々と続いている。神代から始まる歴史書は、「天皇による統治の正統性を神話的伝承にもとづいて明らかにしようとするイデオロギーの書である」と位置付けている。中でも注意をひいたのが、垂直の宇宙軸と水平の宇宙軸の観点である。垂直軸は、天孫降臨(天・地・地下を結ぶ軸)、水平軸は、大和を中心に出雲と伊勢を結ぶ軸。この大枠の宇宙観の中に記紀の描く世界があると説く。
八百万の神の考え方は、自然と自分との一体感みたいなところが日本人の心の中に常にあったことにあるようだ。この本は350ページあまりの大著であるが、引き込まれる魅力がある。一月かけてやっと読み終えたが、最後に荒川氏が言っている言葉が心に響いた。戦後に拡大した現世利益の信仰が、自然を失わせただけでなく人間性をかぎりなく破壊させていることを嘆きながら、
「みずからが、生きる大地から出発、しかも宇宙意識を媒介してこの大地にもどろうとする人間。私たちはそのような人間と社会を追求せねばならない。そうして、私たちは現世利益の信仰からも離脱できる。日本人の宇宙観の歴史はそのさまざまな可能性を教えたくれるのだ。私は心からそう信じているのである。」と結んでいる。
2001/12/7