金星の魅力



夕方の西空や明け方の東の空に輝く金星は、昔から宵の明星、明けの明星と呼ばれて親しまれてきた。マイナス4等級というとてつもない明るさで夜空に輝くために、時折UFOに間違われたりする。また地球に最も近づく惑星であり、地球よりやや小さいがほとんど地球並みの大きさと考えていい。望遠鏡で見る限り、常に雲で覆われているために地表が見えない。雲にも模様らしきものが姿を現すのは紫外線領域であり、通常の可視光ではのっぺらぼうの姿しか見ることができない。そんな金星になぜ取り付かれるかと問われれば、一つにはその位相変化にあると答える。地球に最も近づいた内合のときと最も離れた外合のときの視直径の変化も楽しむことができる。内合や外合のときには太陽と非常に近いところにあるため、天体観測の説明書では通常、観測不適になっている。うっかり太陽を視野に入れて覗こうものなら、眼は一瞬のうちにつぶれてしまうからだ。それでも注意さえ十分にすれば、内合・外合の姿を見ることができる。合というと天体同士が重なるイメージがあるが、決してそうはならない。その訳は、地球の軌道に対して金星の軌道が傾いていている(3.395°)からだ。日食や月食が滅多に起こらないのと同じ理屈である。たまたま軌道が交差するところに出くわすと天体同士が重なることがあるが、滅多にはそんなことは起こらない。内合でそういう状況になる時は日面通過(太陽面通過)という現象が起こる。そのときには黒点のように太陽面に金星の丸い姿が通過していくのを見ることができる。


 金星が雲に覆われていることで、長い間、金星の自転がどうなっているか分からなかったが、1960年代にレーダーの反射波の観測から、金星が公転の方向とは逆向き(北極から見下ろして右回り)に243.01日で自転していることがわかった。これは、公転周期224.7日より長いことになる。
地表の観測は厚い雲に覆われているために地球からの光学望遠鏡では行なえない。ただ電波で調べると雲を突き抜けて地表を観測することができる。さらに詳しいことは金星に到達した衛星の観測によってもたらされた。1962年のマリナー2号、1975年に金星に軟着陸したソビエトのベネラ9号と13号、1978年のアメリカのパイオニア・ビーナス号、1982年のベネラ13号・14号、1983〜1984年のベネラ15号・16号などだ。それらの観測によって山脈や平原などの形状が明らかになっている。

 金星は異常な世界であることが分かってきた。表面温度が420〜485℃という非常な高温であることと、90気圧という途方もない気圧であるということだ。金星が高温であるのは太陽に近いことと厚い雲による温室効果に拠っている。気圧は深さ900 mの海の底と同じということになる。
さらに、金星の大気についてもいろいろ調べられた結果、大気の主な成分は二酸化炭素が96%を超えていて水は0.1%であることも分かった。さらに約45 kmから70 kmの高さの雲は濃硫酸の粒からできている。塩酸も見つかっている。大気があっても地球とはだいぶ違った世界を作っていることになる。光学望遠鏡では煌々と輝く美しい金星であるが、科学が割り出した結論は見かけによらず恐ろしい世界ということだ。地球と同じような大きさを持ち大気もある金星がどのような進化を辿ってきたのだろうか、あるいは生物の生存の可能性はあるのだろうか。
日本もそんな金星の素顔を探求するために金星に向けて衛星(プラネットC)を2010年に飛ばすことになっている。地上からは見えない金星のベールを剥がすのもそう遠い未来ではなさそうである。

プラネットCホームページ
記:2006/9/26